令和元年弁理士試験 短答式筆記試験問題 4~6

令和元年弁理士試験 短答式筆記試験問題

【特許・実用新案】4

特許要件及び特許出願に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、誤っているものは、いくつあるか。

(イ)

特許法第36 条の規定によれば、特許を受けようとする者が、願書に添付して特許庁長 官に提出しなければならないと規定された明細書には、「発明の名称」、「図面の簡単 な説明」、「発明の詳細な説明」及び「特許請求の範囲」を記載しなければならない。

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  • 「特許請求の範囲」は記載する必要はない(36条3項)
  • 「特許請求の範囲」は、添付書面である(36条2項)

(ロ)

特許を受ける権利を有する甲の行為に起因して特許法第29 条第1項各号のいずれか に該当するに至った発明イがある場合に、その行為によってその発明イを知った乙がそ の発明イに対して改良を加えた発明ロを刊行物によって発表した。その後、その発明イ が特許法第29 条第1項各号のいずれかに該当するに至った日から3月後に甲がその発 明イについて特許出願をした。この場合、甲は、発明ロを発表したことについて新規性 の喪失の例外に関する特許法第30 条第2項の適用を受けられることがある。

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まとめ

  • 30条の趣旨
    •  原則、公開された発明は特許を受けることができない。しかし、自らの発明を公開した後、その発明について一切特許を受けることができないとすると、発明者にとって酷な場合がある。
       そのため、新規性喪失の例外について規定した。
  • 自己の行為に起因する場合、30条1項が適用され、他者の行為に起因する場合、同条2項が適用される。
  • 特許を受ける権利を有する者の意に反する場合、30条1項が適用され、自身の行為に起因する場合、同条2項が適用される。
  • 30条2項の場合、同条3項の手続きが必要となる。
  • 特許を受ける権利を承継した者の出願についても適用される。
  • 先願の例外又は出願日の特例ではない。(商標法とは異なる。)
  • 自己の行為に起因する場合(青本 30条)
    • 自己の行為に基づいて他者により公開される場合も含む。
    • 特許を受ける権利を有する者の発明に他者が改良等を加えて公開した場合、当該他者が改良を加えた発明は、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した発明には該当せず、30条2項の適用を受けることができない。
      • 特許を受ける権利を有する者の意に反して、他者が改良等を加えて公開した場合、30条1項の適用を受けることができるかもしれない。

解説

  • 発明ロを発表したことについて、甲の意に反するものである場合、30条2項の適用を受けることができない。
  • 甲の行為に起因するものである場合、発明ロは改良発明であるため、30条2項の適用を受けることができない。

(ハ)

特許を受ける権利を有する者の意に反して特許法第29 条第1項各号のいずれかに該 当するに至った発明は、その該当するに至った日から7月後にその者がした特許出願に 係る発明についての同項及び同条第2項の規定の適用について、同条第1項各号のいず れかに該当するに至らなかったものとみなされる場合はない。

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  • 新規性喪失後、1年以内に手続きをしなければならない(H30年改正 30条1項、2項)

(ニ)

特許法第36 条第5項には、特許請求の範囲に、特許出願人が特許を受けようとする発 明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならないことが規定さ れており、当該規定に違反すると、同項に違反する旨の拒絶の理由が通知される。

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  •  36条5項は、拒絶理由でない(49条各号)
     特許出願人の意思にかかわらず、審査官が適当かどうかを判断することは適当でないためである。
  • 36条4項1号、6項、37条は49条4号、36条4項2号は49条5号による拒絶理由。

(ホ)

外国語書面出願の出願人が、特許法第36 条の2第2項本文に規定する期間に、同項に 規定する外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文(以下、単に「翻訳文」 という。)の提出をせず、同条第3項による特許庁長官の通知を受けたが、同条第4項 に規定する期間内にも翻訳文を特許庁長官に提出しなかったために、当該外国語書面出 願は、同条第2項本文に規定する期間の経過の時に取り下げられたとみなされた。この 場合、当該出願人は、同条第2項本文に規定する期間内に翻訳文を提出することができ なかったことについて正当な理由があるときは、同条第6項に規定する期間内に限り、 翻訳文を特許庁長官に提出することができる。

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  •  36条の2第4項に規定する期間に期間内に翻訳文を提出できなかったことについての正当理由があった場合、提出できる(36条の2第6項)
     36条の2第2項本文に規定する期間内ではない。
  • パリ条約による優先権主張に、在外者の特許管理人の特例における、特許管理人の選任の届け出の提出期間(184条の11第6項)
  • 規定通り
  • 提出命令通知(36条の2第3項)
  • 正当理由による追完(同条6項)

【特許・実用新案】5

特許異議の申立てに関し、次のうち、正しいものは、どれか。

特許異議の申立てをする者は、特別の事情があるときは、特許異議申立書に特許異議 申立人の氏名又は名称を記載することを省略することができる。

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  • 規定なし。

特許庁長官は、特許異議の申立てをする者により特許異議申立書が提出されると、特 許異議申立書の副本を特許権者に送付しなければならない。

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  • 送達しなければならない。
  •  審判長は、特許異議申立書の副本を特許権者に送付しなければならない(115条3項)
     特許庁長官が送付するわけではない。

特許異議の申立てに係る特許を取り消すべき旨の決定は、決定の謄本の送達により確 定する。

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  • 取消決定については、決定の謄本送達後、30日以内に不服申し立てをすることができる(178条1項、3項)。その期間経過後、取消決定が確定する。

審判長は、特許異議の申立てに係る特許を取り消すべき旨の決定をしようとするとき は、参加人がいる場合、特許権者のみならず参加人に対しても、特許の取消しの理由を 通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。

  • 規定通り(120条の5第1項)

特許法には、特許異議の申立てをすることができる期間について、特許権の設定の登 録の日から6月以内に限る旨の規定がある。

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  • 特許掲載公報の発行の日から6月以内(113条1項)特許権の設定の登録の日からではない。

【特許・実用新案】6

特許出願の分割及び実用新案登録に基づく特許出願に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、正し いものは、いくつあるか。 ただし、特に文中に示した場合を除いて、特許出願は、外国語書面出願、国際出願に係 る特許出願、特許出願の分割に係る新たな特許出願、出願の変更に係る特許出願又は実用 新案登録に基づく特許出願ではなく、取下げ、放棄又は却下されておらず、査定又は審決 が確定しておらず、いかなる補正もされておらず、いかなる優先権の主張も伴わないもの とする。

(イ)

2以上の発明を包含する特許出願において、2以上の発明が特許法第37 条に規定する 発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当する場合であっても、特許出願人は、当 該特許出願の一部を分割して、1又は2以上の新たな特許出願にすることができる。

  • 単一性の要件(37条)は、分割出願をするための要件ではない。(意匠10条の2とは異なる。)

(ロ)

特許異議の申立ての審理において、特許の取消しの理由が通知され、相当の期間を指 定して意見書を提出する機会が与えられた場合、当該指定された期間内に、その特許の 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の一部を1又は2以 上の新たな特許出願とすることができる旨が特許法に規定されている。

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  • 分割出願できる時期(44条1項)に、取消理由通知における指定期間は含まれていない。

(ハ)

甲の実用新案登録に対し、請求人乙及び請求人丙の各人を請求人とする2件の実用新 案登録無効審判の請求があり、請求人乙の実用新案登録無効審判の請求について、期間 aを指定して答弁書を提出する機会が与えられた。その指定された期間aの経過後、請 求人丙の実用新案登録無効審判の請求について、期間bを指定して答弁書を提出する機 会が与えられた。この場合、甲は、その指定された期間b内に実用新案登録に基づいて 特許出願をすることができることがある。

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  • 46条の2の出願ができる時期は、無効審判の答弁書提出のための最初の指定期間である(46条の2第1項4号)

(ニ)

甲は、特許請求の範囲に発明イが記載され、明細書及び図面には発明イ、ロ及びハが 記載された特許出願Aをした。その後、特許出願Aを分割して特許請求の範囲に発明ロ が記載され、明細書及び図面には発明イ及びロが記載された新たな特許出願Bをした。 さらに、甲は、特許出願Bを分割して特許請求の範囲に発明ハが記載され、明細書及び 図面には発明イ、ロ及びハが記載された新たな特許出願Cをした。この場合、特許出願 Cは、特許出願Aの時にしたものとみなされる。

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特許審査基準 H27年9月改正 第VI 部 第1 章 第1 節 特許出願の分割の要件

5. 分割要件についての判断に係る留意事項

 出願人は、特許出願(親出願)を原出願として分割出願(子出願)をし、更に子出 願を原出願として分割出願(孫出願)をすることができる。
 この場合は、審査官は、以下の(i)から(iii)までの全ての条件を満たすときに、 孫出願を親出願の時にしたものとみなして審査をする。

  • (i) 子出願が親出願に対し分割要件の全てを満たすこと。
  • (ii) 孫出願が子出願に対し分割要件の全てを満たすこと。
  • (iii) 孫出願が親出願に対し分割要件のうちの実体的要件の全てを満たすこと。

 分割要件とは、実体的要件と形式的要件に分けられる。形式的要件とは、出願人適格と出願可能時期である。
 実体的要件とは、分割出願に記載された事項が、原出願の出願当初に記載された事項の範囲内かどうか等についてである。

  • 子出願に対応する出願Bの明細書及び図面には、発明イ及びロのみが記載されているにもかかわらず、孫出願に対応する出願Cの明細書及び図面には、発明イ、ロの他、ハも記載されている。そのため、孫出願が子出願に対し実体的要件が満たされておらず、分割要件の全てを満たしていない。そのため、分割出願の効果は得られず、特許出願Cは、特許出願Aのときにしたものとみなされない。
  • パリの優先権(パリ4条C(2))や、国内優先権(41条2項)のように、先の出願のみに適用される旨の規定はない。

(ホ)

甲は、特許請求の範囲に発明イが記載され、明細書及び図面には発明イ及びロが記載 された特許出願Aをし、特許出願Aの出願の日後、特許出願Aを分割して特許請求の範 囲、明細書及び図面に発明ロが記載された新たな特許出願Bをした。その後、拒絶の理 由が通知されることなく特許出願Bについて特許権の設定の登録がされたとき、この特 許権の存続期間は、特許出願Bの分割の日から20 年をもって終了する。ただし、特許権 の存続期間の延長登録の出願はないものとする。

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  • 分割出願は、先の出願日にしたものとみなされる(44条2項)。そのため、出願Bの特許権の存続期間の起算日は、出願Aの出願日となる。
  • 国内優先権の主張の場合、優先権主張を伴う出願をした日が、存続期間の起算日となる(41条2項は、67条1項には適用されない)
  • パリの優先権の主張の場合も同じ(パリ4条の2(5))