令和元年弁理士試験 短答式筆記試験問題 1~3

令和元年弁理士試験 短答式筆記試験問題

【特許・実用新案】1

特許出願についての拒絶査定不服審判又は特許法第162 条に規定する審査(いわゆる前 置審査)に関し、次の(イ)~(ニ)のうち、正しいものは、いくつあるか。

(イ)

拒絶査定不服審判において、審判官について審判の公正を妨げるべき事情があるとき でも、拒絶査定不服審判を請求する者が、忌避の申立を口頭をもってすることができる 場合はない。

×

  • 拒絶査定不服審判は、原則、書面審理(145条1項)
  • ただし、口頭をもってすることもできる(同項但し書き)
  • 審判官について、審判の公正を妨げるべき事情があるときは、忌避の申立てができる(141条1項)
  • 忌避の申立てをする者は、口頭審理においては、口頭をもってすることができる(142条1項)

(ロ)

拒絶査定不服審判の請求があった場合において、その請求と同時に実験成績証明書の 提出があったときは、その請求と同時にその請求に係る特許出願の願書に添付した明細 書、特許請求の範囲又は図面について補正がなくとも、特許庁長官は審査官にその請求 を審査させなければならない。

×

  • 補正があった場合は、前置審査(162条)。それ以外は、審判。

(ハ)

特許庁長官は、拒絶査定不服審判の請求があった全ての審判事件について、各審判事 件に審判書記官を指定しなければならない。

×

  • 前置審査(162条)で、特許査定となった場合(163条3項)、審判がはじまらない。そのため、審判書記官は指定されない(144条の2第1項)

(ニ)

拒絶査定不服審判の請求は、拒絶査定不服審判を請求した者に審決の謄本が送達され た後であっても、取り下げることができる場合がある。

  • 審決確定まで、審判請求を取り下げることができる。
  • 審決の謄本送達後、訴訟を提起する場合がある。
  • 訴訟を提起する期間経過後、審決が確定する。

【特許・実用新案】2

特許権又は実用新案権の侵害に関し、次のうち、正しいものは、どれか。

特許権者は、故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対し、当該特許権の存 続期間中に限り、その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求することができる。

×

  • 損害賠償請求(民709条)は、特許権存続期間満了後もできる。

特許権者は、過失により自己の特許権を侵害した者に対しその侵害により自己が受け た損害の賠償を請求する場合において、その侵害した者がその侵害の行為により利益を 受けていないときは、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額(以 下「実施料相当額」という。)を超える損害を受けていたとしても、実施料相当額を超 える賠償を請求することはできない。

×

  • 実施料相当額を超える賠償を請求することを妨げない(102条4項)

実用新案権者は、その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした 時から30 日を経過するまでの間は、自己の実用新案権を侵害する者又は侵害するおそれ がある者に対し、その権利を行使することができない。

×

- 警告直後から、権利行使可(実29条の2)

特許権の侵害に係る訴訟において、被告が、当該特許が特許無効審判により無効にさ れるべきものであるとの主張をした場合に、その主張が審理を不当に遅延させることを 目的として提出されたものと認められるときは、その主張が時機に後れたものでなくと も、裁判所は、職権で却下の決定をすることができる。

  • 時機に遅れたものといった条件は規定されていない(104条の3第1項、2項)

特許権の侵害に係る訴訟において、特許法第105 条の4に規定する秘密保持命令が発 せられた場合には、その命令は、命令が発せられた時から、効力を生ずる。

×

  • 秘密保持命令の謄本送達後から、効力発生(105条の4第4項)

【特許・実用新案】3

特許法及び実用新案法に規定する手続に関し、次のうち、正しいものは、どれか。 ただし、特に文中に示した場合を除いて、特許出願は、外国語書面出願、国際出願に係 る特許出願、特許出願の分割に係る新たな特許出願、出願の変更に係る特許出願又は実用 新案登録に基づく特許出願ではなく、取下げ、放棄又は却下されておらず、査定又は審決 が確定しておらず、いかなる補正もされておらず、いかなる優先権の主張も伴わないもの とする。 また、特に文中に示した場合を除いて、実用新案登録出願は、国際出願に係る実用新案 登録出願、実用新案登録出願の分割に係る新たな実用新案登録出願、出願の変更に係る実 用新案登録出願ではなく、実用新案登録に基づく特許出願がされておらず、取下げ、放棄 又は却下されておらず、審決が確定しておらず、いかなる補正もされておらず、いかなる 優先権の主張も伴わないものとする。 さらに、以下において、「最後の拒絶理由通知」とは、特許法第17 条の2第1項第3号 に規定する「最後に受けた」拒絶理由通知をいうものとする。

甲の実用新案登録Aに対して、他人から実用新案技術評価の請求がなされたが、甲は、 当該実用新案技術評価書の謄本の送達があった日から2月を経過するまでに訂正を行わ なかった。当該実用新案技術評価書の謄本の送達があった日から1 年後、甲の当該実用 新案登録Aに対して、実用新案登録無効審判が請求された。この実用新案登録無効審判 について、実用新案法第39 条第1 項に規定された答弁書の提出のために最初に指定され た期間内であれば、甲は、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする訂正をすること ができる。

×

  • 実14条の2第1項訂正を行える期間は、各号の一回のみ。

特許庁長官は、特許出願人の氏名又は名称の記載がない特許出願について、不適法な 手続であって、その補正をすることができないものであるとして、手続をした者に対し、 その理由を通知し、相当の期間を指定して、弁明を記載した書面を提出する機会を与え た後、その特許出願を却下することがある。

×

  • 出願を取り下げたものとする(18条の2)
  • 氏名又は名称の記載がない特許出願には、補完命令がされる(38条の2第2項)
  • 補完がされない場合、出願却下することができる(同条8項)
  • ここで、補完と同時に、又はその後、不適法は手続きである補正をしたとして、その補正をすることができないものであるとして、理由通知、期間指定、弁明書の提出機会付与後、その補正が却下される(18条の2)。その特許出願が却下されるわけではない。

出願人は、最後の拒絶理由通知において指定された期間内に、明細書のみについて補 正するとともに意見書を提出した。これに対し、当該補正が特許法第17 条の2第3項の 要件(いわゆる新規事項の追加の禁止)を満たしているものの、当該補正及び意見書に よって最後の拒絶理由通知に係る拒絶の理由が解消されていないと審査官が認めた場合、 この補正は却下される。

×

  • 最後の拒絶理由通知における指定期間では、特許請求の範囲について、補正の制約がある(17条の2第5項)。明細書については、17条の2第3項のみが制約となる。
  • 拒絶理由が解消されない場合、補正却下(53条1項)
  • 拒絶理由は通知されず(50条但し書き)、最後の拒絶理由通知における拒絶理由により、拒絶査定(49条、52条)

  • 17条の2第3項を満たしているため、補正却下の対象ではない(53条1項)、補正却下されない。

    特許審査基準 H27年9月改正 第I部 第2章 第6節 補正の却下の決定

    4.補正を却下する場合の出願の取扱い

     補正を却下すると、出願は補正書が提出される前の状態に戻る。

    (1)

     審査官は、「最後の拒絶理由通知」で指摘した拒絶理由が適切であって、その拒絶理由が解消されていないと認められる場合は、補正の却下の決定をした上で、拒絶査定をする。

    5.補正を却下しない場合の出願の取扱い

    (2)

     審査官は、補正後の出願について、拒絶理由が解消されていないと判断した場合は、拒絶査定をする。

所感

  • 補正後の拒絶査定は、全て補正却下後にされるものだと思っていた。

出願人は、特許法第29 条第2項のいわゆる進歩性の規定に違反することのみを理由と する最後の拒絶理由通知を受け、指定された期間内に請求項の削除のみを目的とする補 正をするとともに意見書を提出した。これに対し、当該補正及び意見書によって最後の 拒絶理由通知に係る拒絶の理由が解消されていないと審査官が認めた場合、この補正は 却下されず、拒絶をすべき旨の査定がされる。

×

  • 最後の拒絶理由を受け(17条の2第1項3号)、審査官が拒絶理由解消していないと認めた場合、補正却下(53条1項)間違え。
  • 拒絶の理由が解消されていないことから、進歩性(29条2項)違反により、独立特許要件(17条の2第6項で準用する126条7項)を満たしていないことが、補正却下理由。
  • 最後の拒絶理由通知(17条の2第1項3号)を受け、請求項の削除を目的とする補正(同条5項1項)を行う。
  • 本補正は、補正却下(53条1項)の対象である17条の2第3項から6項に該当しない。そのため、補正却下されない。
  • よって、この補正は却下されず、拒絶をするべき旨の査定がされる。
  • 特許請求の範囲の限定的減縮(17条の2第5項2号)を目的とする補正を行い、拒絶理由が解消されていないと認められた場合、補正却下の対象(53条1項、17条の2第6項で準用する126条7項)となるため、補正却下され、拒絶査定となる。

実用新案法には、訂正要件として、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする訂正 をする場合、訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により特定 される考案が実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができるもの でなければならない旨が規定されている。

  • 実用新案では、独立特許要件のような規定はない。実質的な審査がないためである。