平成28年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

平成28年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

【問題Ⅱ】

 甲は、商標イについて、aとbを指定商品とし、X国における平成27 年6月1 日を出 願日とする商標登録出願を基礎とするパリ条約に基づく有効な優先権の主張を伴う商標登 録出願Aを同年8月31 日に行った。
 乙は、Y国における商標ロにかかる商標権を基礎とし、aを指定商品とするマドリッド 協定議定書に基づく国際登録を平成27 年2月18 日に受けた。その後、乙はaを指定商品 として、日本国を領域指定する当該国際登録についての事後指定による商標登録出願Bを 同年6月2日に行い、同年8月29 日に商標登録を受け、同年9月29 日発行の商標掲載公 報に掲載された。
 また、乙は、当該商標権の登録後、当該商標を使用する自己の商品aについて、大々的 にテレビ等のメディアを通じて広告を行った結果、商品aに使用する登録商標ロは、短期 間で需要者の間に広く認識される商標となった。
 そこで、乙は、平成27 年10 月30 日に登録商標ロと同一の標章ハについてbを指定商 品とする防護標章登録出願を行い、同年12 月24 日に防護標章登録を受けた。
 その後、甲は、商標登録出願Aについて、乙の登録防護標章ハが引用された、商標法第 4条第1項第12 号に該当するとの拒絶理由の通知を受けた。
 以上の事実を踏まえ、現時点が、商標登録出願Aに対する拒絶理由通知の応答期間内で あることを前提として、以下の設問に答えよ。
 ただし、商標登録出願Aが商標法第4条第1項第12 号に該当するとの認定には誤りは ないものとし、甲と乙の出願はいずれも不正の目的が認められないものとする。また、セ ントラルアタックによる商標ロに係る乙の国際登録の取消し及び甲と乙との交渉は考慮 しないものとする。
【65点】

(1)

甲が商標登録出願Aについて、指定商品aのみの商標登録を受けるための法的措置を説明せよ。

解答例

1. 商標登録出願の分割又は補正

 乙の登録防護商標は、標章ハ、指定商品bである。乙の登録防護標章を引用として、甲の商標登録出願Aが拒絶される理由は、甲の出願Aの指定商品にbが含まれているためである。そのため、指定商品bを分割し、新たな商標登録出願をする(10条1項)。または、指定商品bを削除補正する(68条の40第1項)

2. 拒絶理由通知に対する意見書の提出

 甲は拒絶理由通知により指定される期間内に、意見書を提出することができる(15条の2)。意見書には、分割又は補正をすることにより、拒絶理由が解消する旨を記載するべきである。

3. 登録料の納付

 出願Aについて、登録の査定の謄本送達後、甲は登録料を納付することにより(40条1項)、商標権の設定の登録がされる(18条2項)

(2)

甲が商標登録出願Aについて、指定商品a及びbの双方の商標登録を受けるための法的措置を説明せよ。

1. 商標登録出願の分割

 甲の出願Aについて、指定商品bを分割し、新たな商標登録出願をする(10条1項)。出願Aについて、指定商品aとして登録される。

1. 商標登録無効審判の請求

 乙の商標権に係る商標登録出願Bについて、商標ロ、指定商品a、また事後指定のため出願日は平成27年6月2日とみなされる‘‘(68条の9第1項但し書き)‘‘。ここで、甲の商標登録出願Aが登録された場合、商標イ、指定商品a、またパリ条約に基づく優先権主張を伴っているため、出願日は平成27年6月1日とみなされる(パリ4条B)。また、乙の出願Bの商標ロは、標章ハと同一であり、標章ハは甲の出願Aの商標イと同一であるため、商標ロと商標イは同一である。また、出願Bは出願Aより先に登録されている。よって、同一の商品について使用する同一の商標について、出願Aと出願Bがされているため、出願Bは、8条1項の無効理由を有する(46条1項1号)
 よって、甲は上記を無効理由として、無効審判を請求するべきである。
 甲は、乙の登録防護標章を引用として、拒絶理由の通知を受けているため、利害関係人であり、無効審判を請求する主体適格を有している(同条2項)
 また、商標登録出願Bに係る商標権は、登録から5年の除斥期間を経過していないため、無効審判を請求することができる(47条1項)

2. 審決による効果

 無効審判の請求が容認された場合、乙の商標権は遡及的に消滅する(46条の2第1項本文)。また、その商標権に基づく防護標章登録も付随的に消滅する(66条3項)。よって、甲の商標登録出願Aの拒絶理由が消滅するため、商標登録をすべき旨の査定がされ得る(16条)

3. 登録料の納付

 甲は、商標登録出願Aの登録の査定の謄本送達後、登録料を納付することにより(40条1項)、指定商品bに係る商標権についても、設定の登録がされる(18条2項)

所感

  • 8条1項について、はじめ、先願は登録されなければ、後願の拒絶理由にならないと考えていた。なぜならば、商標において、先願は重要でない。先願が登録されて、初めて重要になる。4条1項11号の規定についても、登録された先願が対象にされている。また、8条3項により、先願が拒絶等された場合、先願の地位は失う。権利の調停等が面倒なので、先願が登録されるまで、待ってもいいような気がする。
     しかし、8条1項について、先願は登録されなくてもよいと、判事されている。

平成15(行ケ)422  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/344/010344_hanrei.pdf

法8条1項における先願の商標について
 被告は,法8条1項の規定における先願の商標は,商標登録されている必 要がある,と主張する。しかし,法8条1項及び3項並びに法46条1項1号並び に法のその余の規定をみても,法46条1項1号所定の無効理由の判断において, ある商標が法8条1項の規定における先願の商標とされるためには,それが商標登 録されている必要がある,と解すべき理由は見いだし得ない。被告の主張は理由が ない。