平成29年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [特許・実用新案]

平成29年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [特許・実用新案]

【問題Ⅱ】

 ガス機器メーカー甲は、平成24 年4月にガス機器などに用いることが可能な安全装置に 関する発明イを完成したとして、平成24 年5月に特許出願した。当該特許出願は、平成25 年11 月に出願公開され、平成26 年1月に発明イに係る特許権Pが設定登録された。特許権 Pは、平成29 年7月現在も存続している。
 各設問はそれぞれ独立しているものとし、以上の事実及び各設問に記載の事実のみを前提 として、以下の各設問に答えよ。

(2)

 ガス機器メーカー丙は、甲のライバル会社であり、平成29 年7月現在、自己の特許権Q に係る自社の特許発明ロの実施品であるガス機器Yを製造しようとしていたところ、特許 発明ロが特許発明イを利用するものであることが分かり、特許権Pについて通常実施権の 設定を受けることが必要となった。
 甲は、平成29 年7月現在まで、特許発明イの実施を一切していないが、甲は丙に対し、 自社の特許発明の実施を許諾しない方針である。 また、特許発明イをガス機器に使用すると、ガス漏れが確実に防止され、ガス漏れによ るガス中毒者やガス爆発による負傷者が著しく減少する。
 この場合、丙が、特許権Pについて通常実施権の設定を受けるために、特許法上、利用 できる制度について、説明せよ。

解答例

(1) 不実施の場合の通常実施権の設定の裁定(83条2項)

 特許発明が、日本国内で3年間実施されず、かつ出願日から4年間実施されていない場合、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者に特許発明の実施について通常実施権の許諾について協議を求めることができる(同条1項)
 特許発明イは、日本国内で3年間以上実施されておらず、かつ出願から4年以上経過しているため、丙は甲に対して特許発明イの通常実施権の許諾について、協議を求めることができる。
 また、協議が成立しない場合、協議を求めた者は、 その特許発明の実施をしようとする者は、特許庁長官に当該特許発明に係る通常実施権の裁定を請求することができる 特許庁長官の裁定を請求することができる(同条2項)
 設問より、甲は特許発明の実施を許諾しない方針であるため、丙との協議は成立しない。そこで、丙は特許庁長官の裁定を請求することができる。 

(2)自己の特許発明の実施をするための設定の裁定(92条3項)

 特許発明が、72条に規定する他人の先願に係る特許発明を利用する発明である場合、先願に係る特許権を有する特許権者に、 その他人に対し、その発明の実施をするための通常実施権の許諾について協議を求めることができる(同条1項)
 丙の特許発明ロは、甲の特許発明イを利用するものであり、甲の特許権Pについて通常実施権の設定を受けることが必要であるため、協議を求めることができる。
 また、協議が成立しない場合、その特許発明を実施しようとする者は、特許庁長官の裁定を請求することができる(同条3項)
 設問より、甲は特許発明の実施を許諾しない方針であるため、丙との協議は成立しない。そこで、丙は特許庁長官の裁定を請求することができる。

(3)公共の利益のための通常実施権の設定の裁定(93条2項)

 特許発明が、公共の利益のために特に必要な発明である場合、そ特許発明の実施をしようとする者は、特許権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる(同条1項)
 甲の特許発明イは、ガス機器に使用すると、ガス漏れが確実に防止され、ガス漏れによ るガス中毒者やガス爆発による負傷者が著しく減少するため、公共の利益のために特に必要な発明に該当するため、丙は甲に対して、協議を求めることができる。  また、協議が成立しない場合、特許発明の実施をしようとする者は、経済産業大臣の裁定を請求することができる(同条2項)
 設問より、甲は特許発明の実施を許諾しない方針であるため、丙との協議は成立しない。そこで、丙は経済産業大臣の裁定を請求することができる。  

(4)裁定の効果

 裁定の謄本の送達があったときは、裁定で定めるところにより、当事者間の協議は成立したものとみなされるため(同条2項)、裁定を請求した者は、当該特許発明を実施することができる(78条2項)

所感

  • 記載量が多い。条文→あてはめ→結果の順で記載しているためである。あてはめ→結果と記載すれば、記載量が減るため、そちらのほうがいいと思う。
  • 83条→92条→93条と記載した。条文番号順であるが、流れとしてはそれでいいと思う。
    • 不実施だから、使ってもいいでしょ。
    • こちらも、特許発明もっているから、使っていいでしょ。
    • 重要な発明だから使ってもいいでしょ。