H30 論文 特許

設問 2

下記の相談を受けた弁理士Aの立場から、設問に記載された事実のみを前提として、以 下の各設問に答えよ。 ただし、設問中の特許権P及びQについて無効理由は考慮する必要はない。

(1) 【平成29 年6月上旬 釣り具メーカー甲からの相談①】

弁理士Aは、甲から、「構成aと構成bを有する釣り竿」である新製品Xの製造販売の ために、釣り具メーカー乙が有している特許権Qの譲渡に関する相談を受けた。 甲によれば、「乙は、(イ)甲の新製品Xは、釣り具メーカー丙の有する特許権Pに係る特 許発明の技術的範囲にも属するものであるが、(ロ)特許権Qは、特許権Pが登録された後 に出願したにもかかわらず、特許権として登録されたものであるから、特許権Qを有して いれば、特許権Pが障害となることはなく、新製品Xの製造販売ができると説明してい る。」とのことであった。
そこで、特許権P及びQについて調査すると、特許権Pは、特許請求の範囲を「構成a を有する釣り竿。」とする特許発明についての特許権であり、特許権Qは、特許請求の範 囲を「構成aと構成bを有する釣り竿。」とする特許発明についての特許権であり、いず れも有効に存在していることが判明した。
乙の説明(イ)及び(ロ)が正しいか否か、理由を付して、それぞれ分けて説明せよ。

解答例

乙の説明(イ)について

 特許の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(70条1項)
 特許権Pに係る 特許発明 特許請求の範囲は「構成aを有する釣り竿」であるところ、甲の新製品Xは「構成aと構成bを有する釣り竿」であり、「構成aを有する釣り竿」ということができる。よって、特許権Pに係る特許発明の発明特定事項を 満たしているため 充足しているため、技術的範囲に属する。
 そのため、乙の説明は正しい。

乙の説明(ロ)について

 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する(68条本文)
 特許権を有していたとしても、当該特許出願の日前の他人の特許出願に係る発明を利用する場合、当該特許発明を実施することはできない(72条)
 利用するとは、一の発明を実施した場合、他方の発明を実施するが、その逆は成立しないことを意味する。
利用とは、一方の権利内容の実施が他方の権利内容の実施となるが、その逆は成立しない関係である。
 ここで、特許権Qに係る特許発明「構成aと構成bを有する釣り竿」を実施すると、特許権Pに係る特許発明「構成aを有する釣り竿」を実施することになるが、その逆は成立しない。そのため、Qの発明はPの発明を利用している。また、特許権Pは先願である。よって、特許権Qを有していたとしても、特許権Qに係る特許発明である新製品Xを製造販売することはできない。
 そのため、乙の説明は正しくない。