平成29年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [特許・実用新案]

【問題Ⅰ】

 日本国内に居住する甲は、平成28 年5月1日に、日本国において発明イについての英語 による外国語書面出願Aをした。その後、弁理士乙は、甲から、出願Aを基礎としてパリ 条約による優先権を主張しつつ、出願Aの明細書に実施例を追加して、日本国を除くパリ 条約の同盟国に発明イについての出願をする手続の依頼を受けた。そこで、乙は、これら の国へパリ条約による優先権の主張を伴った出願をするために、英文明細書の作成を進め ていたところ、平成29 年4月28 日に、甲から、出願Aの明細書にさらに別の実施例を追 加して、日本国に、出願Aを基礎とする優先権の主張を伴う英語による出願Bをする手続 の依頼を受けた。
 以上を前提に、以下の各設問に、答えよ。

 出願Bを特許協力条約に基づく国際出願とする場合において、以下の設問について、 答えよ。

(3)

 出願Bを日本国内に移行させるに際して行われる手続について説明するとともに、上 記(2)における補正がされていた場合の手続について、その手続を行わなかった場合にど うなるかも含めて、説明せよ。

解答例

1.国内移行手続き

 原則、国内書面提出期間内に出願Bの明細書等の翻訳文を提出しなければならない‘‘(184条の4第1項)‘‘。出願Bの取り下げ(同条3項)を回避するためである。
 また、要約書の翻訳文を提出しなければならない(同条1項)。出願Bの却下(184条の5第3項)を回避するためである。
 さらに、国内書面提出期間内に、国内書面を提出し(185条の5第1項)、手数料を納付しなければならない(195条2項)。出願Bが却下されることを回避するためである(同条3項)

2. 19条補正

 翻訳文を提出する場合、国際出願日における請求の範囲の翻訳文の代わりに、19条補正後の翻訳文を提出することができる(184条の4第2項)
 また、国際出願日における請求の範囲の翻訳文を提出したとしても、国内書面提出期間内に、19条補正後の翻訳文を提出することができる(同条6項)
 19条補正の翻訳文を提出した場合、当該翻訳文は願書に添付して提出した特許請求の範囲とみなされる(184条の6第2項)
 また、19条補正の翻訳文を提出しない場合、補正前の翻訳文による請求の範囲を記載したものとして取り扱われる 19条補正はされなかったこととみなされる(184条の4第7項、準184条の7第3項本文)

3.34条補正

 国内書面提出期間内に、 国際処理基準時の属する日までに、34条(2)(b)の補正書の翻訳文を提出しなければならない(184条の8第1項)
 翻訳文を提出した場合、17条の2第1項の規定による補正がされたものとみなされる(同条2項)
 翻訳文を提出しない場合、34条補正はされなかったものとみなされる(同条3項)

所感

  • 条文通りしか記述できない。 H29年論文には多い。
  • 今回は、翻訳文の提出についての問題であるが、日本語特許出願の場合、記載が変わってくるため注意が必要。