平成29年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [特許・実用新案]
平成29年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [特許・実用新案]
【問題Ⅱ】
ガス機器メーカー甲は、平成24 年4月にガス機器などに用いることが可能な安全装置に
関する発明イを完成したとして、平成24 年5月に特許出願した。当該特許出願は、平成25
年11 月に出願公開され、平成26 年1月に発明イに係る特許権Pが設定登録された。特許権
Pは、平成29 年7月現在も存続している。
各設問はそれぞれ独立しているものとし、以上の事実及び各設問に記載の事実のみを前提
として、以下の各設問に答えよ。
(1)
ガス供給会社乙は、独自にガス機器の開発を進めていたところ、出願公開された発明イ
の存在を知り、平成25 年12 月から平成27 年1月まで、自社の研究所で特許発明イの実
施品である安全装置Aを製造し、その技術的効果を確認して機能を調査するためにのみ使
用していた。乙は、その結果に基づいて、平成27 年4月に、安全装置Aを備えたガス機器
Xを完成させ、その後、ガス機器Xを自社の事業に使用している。
乙の行為が、特許権Pの侵害を構成するかどうか、論ぜよ。
解答例
(1) 侵害について
侵害とは、権利・理由の無い第三者が、業として特許発明を実施することである(68条)
。
設問より、乙は特許発明イについて権限又は理由を有さない。
(2) 安全装置Aの実施
設問より、安全装置Aは特許発明イの実施品であり、Aを製造する行為は、特許発明イを実施する行為である(2条3項1号)
。
しかし、その実施行為は、技術的効果の確認、および機能を調査することであり、特許発明の試験、研究に該当する。特許発明の試験、研究については、特許権の効果が及ばない(69条1項)
。試験、研究は、技術を進歩させるものであり、その実施行為にいてまで特許権の効果を及ぼすことは、技術の進歩を阻害することになるためである。
よって、乙の行為は、特許権Pの侵害を構成しない。
(3)安全装置Aを備えたガス機器Xの実施
ガス機器Xは、特許発明イの実施品である安全装置Aを備えている。 また、ガス機器Xを乙の事業に使用している。
よって、乙の行為は、特許発明イの業としての実施に該当するために、特許権Pの設定登録後は、特許権Pの侵害を構成する。
所感
ガス機器Xは安全装置Aを備えているため、ガス機器Xを実施することは、安全装置Aを実施することと同意である。といってもいいのか、よく分からない。利用発明に該当すると考えるが、72条の利用発明の射程は、先願の発明を利用している特許発明であり、ガス機器Xは特許発明でないため、当然実施してはいけない。しかし、引用する条文がない。どうしたものか。
利用発明の態様
思想上の利用発明
「ABCからなる時計」に対する「ABCDからなる時計」の発明実施上の利用発明
物の発明に対するその物の製造方法の発明、製造方法の発明に対するその方法を実施するための装置の発明
ガス機器Xは安全装置Aを備えているため、思想上の利用発明に該当するはず。