令和元年弁理士試験 短答式筆記試験問題 意匠 7~10

令和元年弁理士試験 短答式筆記試験問題

【意匠】7

意匠法第9条(先願)の適用に関し、次の(イ)~(ニ)のうち、誤っているものは、いくつ あるか。なお、意匠法第9条の該当性のみを判断し、他の登録要件は考慮しないこととす る。 また、特に文中に示した場合を除き、意匠登録出願は、いかなる優先権の主張も伴わず、 秘密意匠に係るものでも、分割又は変更に係るものでも、補正後の意匠についての新出願 でも、冒認の出願でもなく、かつ、放棄、取下げ又は却下されておらず、査定又は審決が 確定しておらず、いかなる補正もされていないものとし、また、名義変更、秘密にする期 間の変更は行わないものとし、ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく特例を考慮しな いものとする。

(イ)

甲が、意匠に係る物品を「一組の筆記具セット」として「万年筆」の意匠イが含まれ ている組物の意匠登録出願Aをした。その出願日後に、乙が、意匠イに類似する「万年 筆」の意匠ロについて意匠登録出願Bをした場合であって、意匠イを含む「一組の筆記 具セット」の意匠が意匠登録を受けたとき、意匠ロは意匠登録を受けることができない。

×

  • 先願の物品「一組の筆記具セット」に対し、後願の物品は「万年筆」のため、9条は適用されない。

(ロ)

甲が、「万年筆」の意匠イについて平成30 年8月1日に我が国を指定締約国とする ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際意匠出願Aをし、同年8月7日に国際登 録され、平成31 年2月7日に国際公表された。乙が、平成30 年8月3日に、意匠イに 類似する意匠ロについて意匠登録出願Bをした場合、意匠ロは意匠登録を受けることが できない。

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  • 国際意匠登録出願は、国際登録の日にされた意匠登録出願といなされる(60条の6第1項)
  • 国際意匠出願Aは、H30年8月7日に意匠登録出願したものとみなされるため、H30年8月3日に出願したBは、9条により拒絶されることはない。

(ハ)

甲が、「万年筆」の意匠イについて意匠登録出願Aをし、その出願日後に甲が、意匠 イに類似する意匠ロについて意匠登録出願Bをした場合、意匠ロは意匠登録を受けるこ とができないことがある。

  • 9条は、出願人が同一であっても適用されるため、出願Aの後願である出願Bは、出願Aを引例として9条の規定により拒絶される。

(ニ)

甲が、「万年筆」のキャップ部分を「部分意匠として登録を受けようとする部分」と する意匠イについて意匠登録出願Aをし、その出願日後に乙が、「万年筆」の軸部分を 「部分意匠として登録を受けようとする部分」とする意匠ロについて意匠登録出願Bを した。出願Aに出願Bの「万年筆」の軸部分が開示されている場合、意匠ロは意匠登録 を受けることができない

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  • 物品が異なるため、出願Bは、出願Aを引例として9条の規定により拒絶されることはない。

【意匠】8

意匠登録無効審判に関し、次のうち、誤っているものは、どれか。

意匠登録が条約に違反してされたときは、何人も、意匠登録無効審判を請求すること ができる。

  • 何人も、意匠登録無効審判を請求することができる(48条2項)

意匠権の消滅後に、意匠登録無効審判が請求され、意匠法第3条第1項第3号に該当 するとして意匠登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、意匠権は、初めから存 在しなかったものとみなされる。

  • 49条本文の規定通り。

本意匠の意匠権について、無効にすべき旨の審決が確定したときは、当該本意匠に係 る関連意匠の意匠権についての専用実施権は、すべての関連意匠の意匠権について同一 の者に対して同時に設定する場合に限り、設定することができる。

  • 27条3項の規定通り。

意匠権について、専用実施権の登録がされている場合であって、当該意匠登録につい て、意匠登録無効審判の請求があったときは、審判長は、専用実施権者に、当該無効審 判請求があった旨の通知をしなければならない。

  • 48条4項の規定通り。

意匠登録無効審判で無効にした意匠登録に係る意匠権が、再審により回復したときは、 意匠権の効力は、当該審決が確定した後再審の請求の登録前における当該意匠の善意の 業としての実施にも及ぶ。

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  • 55条1項の規定通り。

【意匠】9

意匠権の効力に関し、次のうち、誤っているものは、どれか。

甲は、意匠イについて、意匠権の設定の登録を受け、意匠ロについても、意匠イを本 意匠とする関連意匠として、意匠権の設定の登録を受けた。甲の意匠イに係る意匠権及 び意匠ロに係る意匠権は、それぞれの設定の登録により発生するが、意匠ロに係る意匠 権は、意匠イに係る意匠権の存続期間の満了を超えて存続することはない。

  • 21条2項の規定通り。関連意匠の意匠権の存続期間は、本意匠の意匠権の設定の登録の日から20年をもって終了する。
  • 本意匠が、登録料未納による消滅(44条4項)、無効にすべき旨の審決確定、又は放棄された場合、関連意匠の意匠権は存続する(22条2項)

甲は、動物の図柄の「湯飲み茶碗」の意匠イについて、意匠権の設定の登録を受けた。 その後、乙が、意匠イの動物の図柄と同じ図柄の「鍋」を製造販売した。甲は乙に対し て、意匠イに係る意匠権に基づいて権利行使をすることができる。

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  • 物品が「湯飲み茶碗」と「鍋」で、物品非類似のため、権利行使をすることができない。

甲は、「はさみ」の意匠イについて出願し、その後、意匠イに類似する「はさみ」の 意匠ロを、意匠イを本意匠とする関連意匠として出願し、意匠イ、意匠ロともに意匠権 の設定の登録を受けた。その後、乙が、意匠ロには類似するが意匠イには類似しない意 匠の「はさみ」を製造販売した。甲は乙に対して、意匠ロに係る意匠権に基づいて権利 行使をすることができる。

  • 関連意匠は、本意匠と同じく、意匠権の効力を有している。また、意匠権の効力は、登録意匠に類似する範囲にまで及ぶ(23条)

甲は、共通の水玉模様を有する「せん茶茶碗」及び「きゅうす」を構成物品とする「一 組のせん茶セット」の意匠イについて、組物の意匠権の設定の登録を受けた。その後、 乙が、意匠イに含まれる「きゅうす」の意匠に類似する意匠の「きゅうす」を単体で販 売した。甲は乙に対して、意匠イに係る意匠権に基づいて権利行使をすることができな い。

  • 物品が「一組のせん茶セット」と「きゅうす」とで異なるため、権利行使をすることができない。

甲は、脚の形状に特徴のある「机」の意匠イについて、脚の部分を意匠登録を受けよ うとする部分として、意匠権の設定の登録を受けた。その後、乙が、意匠イの脚の形状 に類似する形状の脚を有する「椅子」を製造販売した。甲は乙に対して、意匠イに係る 意匠権に基づいて権利行使をすることができない。

  • 物品が「机」と「椅子」とで異なるため、権利行使をすることができない。

【意匠】10

意匠の実施権に関し、次のうち、正しいものは、どれか。

甲は、意匠イについて意匠権の設定の登録を受けている。乙は、意匠イを知らないで これに類似する意匠ロの創作をした。乙は、甲の意匠イについての意匠権の設定の登録 の際に日本国内で意匠イに類似する意匠ロの実施である事業をしていたが、甲の意匠イ の出願時には外国のみで当該事業をしていた。乙は、意匠イに係る意匠権について通常 実施権を有することがある。

  • 乙が、甲の意匠イの出願時に、日本国内で事業の準備をしていれば、通常実施権を有する(29条)

甲は、意匠イについて意匠権Aを有している。乙が、意匠イの後願の意匠ロについて 意匠権Bの設定の登録を受けた。その後、意匠権Aは登録料が納付されず消滅したが、 意匠権Bは存続している。この場合、甲は、意匠イと意匠ロの双方に類似する意匠ハに ついて、業として実施をすることができる。

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  • 登録料未納の場合、通常実施権を有することはない。
  • 甲は、乙の意匠権Bに係る意匠ロに類似する意匠ハについて、正当な理由、又は権原がないため、業として実施することができない(23条)

甲は、「自転車用ハンドル」の意匠イについて意匠権を有している。乙は、そのハン ドルを用いた「自転車」の意匠ロについて意匠権の設定の登録を受けた。その後、乙は、 丙に、意匠ロについての通常実施権を設定した。この場合、丙は、特許庁長官に対し、 意匠イについて通常実施権の設定をすべき旨の裁定を請求することができる。

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  • 意匠法において、通常実施権の設定の裁定を請求することができる者は、意匠権者、及び専用実施権者であり、通常実施権者は請求できない(33条1項、3項)

甲は、意匠イについて意匠権を有している。乙は甲に対し、意匠イについての通常実 施権の許諾を申し入れたものの拒絶された。甲は意匠イを実施しておらず、第三者にも 実施を許諾していない。この場合、乙は、甲の意匠イの不実施を理由に、特許庁長官に 対し、意匠イについて通常実施権の設定をすべき旨の裁定を請求することができる。

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  • 意匠法において、不実施の裁定は規定されていない。

意匠権者は、自己の登録意匠に類似する意匠のみについて、通常実施権を許諾するこ とはできない。

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  • 意匠権者は、登録意匠に類似する意匠について、実施する権利を専有する(23条)。また、その意匠権について他人に通常実施権を許諾することができる(28条1項)
  • そのため、自己の登録意匠に類似する意匠のみについても、通常実施権を許諾することができる。