平成28年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

平成28年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

【問題Ⅱ】

 甲は、商標イについて、aとbを指定商品とし、X国における平成27 年6月1 日を出 願日とする商標登録出願を基礎とするパリ条約に基づく有効な優先権の主張を伴う商標登 録出願Aを同年8月31 日に行った。
 乙は、Y国における商標ロにかかる商標権を基礎とし、aを指定商品とするマドリッド 協定議定書に基づく国際登録を平成27 年2月18 日に受けた。その後、乙はaを指定商品 として、日本国を領域指定する当該国際登録についての事後指定による商標登録出願Bを 同年6月2日に行い、同年8月29 日に商標登録を受け、同年9月29 日発行の商標掲載公 報に掲載された。
 また、乙は、当該商標権の登録後、当該商標を使用する自己の商品aについて、大々的 にテレビ等のメディアを通じて広告を行った結果、商品aに使用する登録商標ロは、短期 間で需要者の間に広く認識される商標となった。
 そこで、乙は、平成27 年10 月30 日に登録商標ロと同一の標章ハについてbを指定商 品とする防護標章登録出願を行い、同年12 月24 日に防護標章登録を受けた。
 その後、甲は、商標登録出願Aについて、乙の登録防護標章ハが引用された、商標法第 4条第1項第12 号に該当するとの拒絶理由の通知を受けた。
 以上の事実を踏まえ、現時点が、商標登録出願Aに対する拒絶理由通知の応答期間内で あることを前提として、以下の設問に答えよ。
 ただし、商標登録出願Aが商標法第4条第1項第12 号に該当するとの認定には誤りは ないものとし、甲と乙の出願はいずれも不正の目的が認められないものとする。また、セ ントラルアタックによる商標ロに係る乙の国際登録の取消し及び甲と乙との交渉は考慮 しないものとする。
【65点】

(1)

甲が商標登録出願Aについて、指定商品aのみの商標登録を受けるための法的措置を説明せよ。

解答例

1. 商標登録出願の分割又は補正

 乙の登録防護商標は、標章ハ、指定商品bである。乙の登録防護標章を引用として、甲の商標登録出願Aが拒絶される理由は、甲の出願Aの指定商品にbが含まれているためである。そのため、指定商品bを分割し、新たな商標登録出願をする(10条1項)。または、指定商品bを削除補正する(68条の40第1項)

2. 拒絶理由通知に対する意見書の提出

 甲は拒絶理由通知により指定される期間内に、意見書を提出することができる(15条の2)。意見書には、分割又は補正をすることにより、拒絶理由が解消する旨を記載するべきである。

3. 登録料の納付

 出願Aについて、登録の査定の謄本送達後、甲は登録料を納付することにより(40条1項)、商標権の設定の登録がされる(18条2項)

(2)

甲が商標登録出願Aについて、指定商品a及びbの双方の商標登録を受けるための法的措置を説明せよ。

1. 商標登録出願の分割

 甲の出願Aについて、指定商品bを分割し、新たな商標登録出願をする(10条1項)。出願Aについて、指定商品aとして登録される。

1. 商標登録無効審判の請求

 乙の商標権に係る商標登録出願Bについて、商標ロ、指定商品a、また事後指定のため出願日は平成27年6月2日とみなされる‘‘(68条の9第1項但し書き)‘‘。ここで、甲の商標登録出願Aが登録された場合、商標イ、指定商品a、またパリ条約に基づく優先権主張を伴っているため、出願日は平成27年6月1日とみなされる(パリ4条B)。また、乙の出願Bの商標ロは、標章ハと同一であり、標章ハは甲の出願Aの商標イと同一であるため、商標ロと商標イは同一である。また、出願Bは出願Aより先に登録されている。よって、同一の商品について使用する同一の商標について、出願Aと出願Bがされているため、出願Bは、8条1項の無効理由を有する(46条1項1号)
 よって、甲は上記を無効理由として、無効審判を請求するべきである。
 甲は、乙の登録防護標章を引用として、拒絶理由の通知を受けているため、利害関係人であり、無効審判を請求する主体適格を有している(同条2項)
 また、商標登録出願Bに係る商標権は、登録から5年の除斥期間を経過していないため、無効審判を請求することができる(47条1項)

2. 審決による効果

 無効審判の請求が容認された場合、乙の商標権は遡及的に消滅する(46条の2第1項本文)。また、その商標権に基づく防護標章登録も付随的に消滅する(66条3項)。よって、甲の商標登録出願Aの拒絶理由が消滅するため、商標登録をすべき旨の査定がされ得る(16条)

3. 登録料の納付

 甲は、商標登録出願Aの登録の査定の謄本送達後、登録料を納付することにより(40条1項)、指定商品bに係る商標権についても、設定の登録がされる(18条2項)

所感

  • 8条1項について、はじめ、先願は登録されなければ、後願の拒絶理由にならないと考えていた。なぜならば、商標において、先願は重要でない。先願が登録されて、初めて重要になる。4条1項11号の規定についても、登録された先願が対象にされている。また、8条3項により、先願が拒絶等された場合、先願の地位は失う。権利の調停等が面倒なので、先願が登録されるまで、待ってもいいような気がする。
     しかし、8条1項について、先願は登録されなくてもよいと、判事されている。

平成15(行ケ)422  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/344/010344_hanrei.pdf

法8条1項における先願の商標について
 被告は,法8条1項の規定における先願の商標は,商標登録されている必 要がある,と主張する。しかし,法8条1項及び3項並びに法46条1項1号並び に法のその余の規定をみても,法46条1項1号所定の無効理由の判断において, ある商標が法8条1項の規定における先願の商標とされるためには,それが商標登 録されている必要がある,と解すべき理由は見いだし得ない。被告の主張は理由が ない。

平成28年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

平成28年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

【問題Ⅰ】

 商標法第6条第2項に規定される「商品及び役務の区分」、並びに指定商品及び指定役 務に関して、以下の設問に答えよ。
【35点】

(1)

「商品及び役務の区分」について簡潔に述べ、さらに、商品及び役務の類似の範囲との関係を説明せよ。

解答例

1. 「商品及び役務の区分」

 商品及び役務の指定(6条1項)は、政令で定める区分に従ってしなければならない(同条2項)。区分分けすることにより、一出願につき多区分に渡る商品及び役務を指定できる。そうすることで、出願人にとっては、区分毎に願書を作成る必要がなくなり、手続きの簡素化が図られ、商標権の管理及び調査が容易になるという利点がある。

2. 商品及び役務の類似の範囲との関係

 6条2項で規定する、政令で定める商品及び役務の区分と商品又は役務の類似範囲は別のものである。それを明示するために、6条3項として規定されている。

(2)

指定商品及び指定役務について、出願時、審査・審判時、登録後のそれぞれにおける 条文上の取扱いを列挙し、簡潔に説明せよ。

1. 出願時

商標登録出願 5条

 指定商品及び指定役務は、願書の記載事項である(5条1項3号)当該記載がない場合(5条の2第1項4号)特許庁長官は、補完を命令じなければならない(同条2項)

2. 審査・審判時

(1) 一商標一出願 6条

 商標登録出願は、一商標ごとに、商品又は役務を指定しなければならない‘‘(6条1甲)‘‘。一商標一出願の原則を定めたものである。
 6条1項、2項は、拒絶理由となる(15条3号)

(2) 分割 10条1項、補正 68条の40

 審査・審判に継続している場合、二以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を新たな商標登録出願とすることができる(10条1項)。また、指定商品又は指定役務を削除補正することができる(68条の40)。複数の商品又は役務を指定した場合、一部の商品又は役務について拒絶、無効の理由があるとき、他の拒絶、無効理由のない商品又は役務について救済するためである。

(3) 審判などの請求

 登録異議の申立て(43条の2柱書)、商標登録無効審判(46条1項柱書)、不使用取消し審判(50条1項)は、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。

3. 登録後

(1) 商標権の分割、移転 (24条、24条の2)

 商標権の分割は、指定商品又は指定役務ごとにすることができる(24条1項)。また、商標権の移転は、指定商品又は指定役務ごとに分割してすることができる(24条の2第1項)

(2) 登録料 40条

 商標権の登録を受ける者は、登録料として、指定商品又は指定役務の区分の数を乗じて得た額を納付しなければならない(40条1項)。また、商標権の存続期間の更新登録の申請をする者は、登録料として指定商品又は指定役務の区分の数を乗じて得た額を納付しなければならない。

(3) 補正 68条の40

 更新登録の登録料納付と同時に、指定商品及び指定役務の区分を減じる補正をすることができる。

(4) 指定商品又は指定役務がニ以上の商標権についての特則‘‘(69条)‘‘

 所定の規定の適用については、指定商品又は指定役務ごとに商標登録がされ、又は商標権があるものとみなされる。  

平成29年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

平成29年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

【問題Ⅱ】

 甲は、平成25 年7月1日に「Wine」を指定商品とする商標「YAMANASHI」 をX国において商標登録出願し、X国における当該商標登録出願に基づきパリ条約による 優先権を主張して、「X国産ぶどう酒」を指定商品とする商標「YAMANASHI」につ き、我が国において平成25 年12 月1日に商標登録出願Aを行った。一方、特許庁長官は、 平成25 年7月25 日に、山梨県を産地とする「ぶどう酒」について、商標法第4条第1項 第17 号の規定により「山梨」を産地として指定した。
 その後、甲は、商標「Grape」(商標法第5条第3項に規定される「標準文字」によ る表示態様のもの)につき、第31 類「ぶどう」、第32 類「グレープジュース」及び第33 類 「いちご酒」を指定商品とする商標登録出願Bを行ったが、審査官から拒絶理由通知を受 けた。
 結局、甲は商標登録を受けることなく、商標「Grape」を商標登録出願Bの商標と 同じ表示態様で商品「ぶどう」に使用していた。甲の商品販売状況は小規模であったが、 甲による当該使用は、乙が所有する商品「果実」を指定商品とする商標「Glape」に 係る商標権を侵害するものであるとして、乙から商標権侵害訴訟が提起された。 以上の事実を踏まえ、以下の設問に答えよ。
 ただし、商標「Grape」と商標「Glape」は類似するものとする。
【65点】

(1)

商標法第4条第1項第17 号の規定を設けた趣旨を説明すると共に、同号の規定が甲 の商標登録出願Aに対する拒絶理由になり得るか否か説明せよ。なお、優先権主張は有 効なものとする。

解答例

1. 趣旨

 TRIPS協定により、加盟国のぶどう酒又は蒸留酒の産地を表示する標章を、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒の商標として登録することを禁止している(TRIPS 23条2項)
 そのため、他の加盟国の産地に比べ、日本国の産地を不利に扱うことがないようにするために4条1項17号を規定した。
 また、TRIPS協定により、加盟国は、原産国において保護されていない地理的表示について、保護する義務を負わないことから(TRIPS 24条9項)、4条1項17号を規定することにより、日本国以外の加盟国において、日本国の産地を不利に扱われることがないようにするためでもある。

2.甲の商標登録出願Aが4条1項17号に該当するか

 日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち、特許庁長官が指定するものを表示する標章はを有する商標は、登録することができない(4条1項17号)。甲の商標登録出願Aは、指定商品「X国産ぶどう酒」、商標「YAMANASHI」であり、特許長官が指定する指定商品「ぶどう酒」、商標「山梨」と指定商品及び商標が類似する。そのため、甲の商標登録出願Aは4条1項17号に該当する。

3. 甲の登録商標出願Aは拒絶されるか

 4条1項17号に該当する商標であっても、商標登録出願前に該当しなければ、拒絶されない(4条3項)。当該規定に該当する前に出願しているため、善意によるものと考えられる。また、当該出願を登録できないとなると、出願人に酷なためである。
 甲の登録商標出願Aの出願日は、パリの優先権の主張を伴っているので、特許長官が4条1項17号の規定により「山梨」を産地として指定した日よりも前に出願したものと判断される(パリ4条B)。そのため、甲の登録商標出願Aは、4条1項17号の規定により、拒絶されることはない(4条3項、15条1号)

(2)

 甲の商標登録出願Bに対する拒絶理由は、指定商品毎に一つずつ異なる内容のものであったとして、各拒絶理由の内容をそれぞれ説明せよ。

解答例

1. 指定商品「ぶどう」

 自己の業務に係る商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は、登録を受けることができない(3条1項1号)。そのような商標は、出所表示機能、及び自他商品識別力がないことが明らかであるためである。  指定商品「ぶどう」について、商標「Grape」は、その商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、3条1項1号に該当するため、拒絶理由となる(15条1号)

2. 指定商品「グレープジュース」

 自己の業務に係る商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は、登録を受けることができない(同項3号)。誰でも使用することを必要とし、また要望するものであるため一私人に独占を認めることは妥当でなく、既に一般に使用され、あるいは将来、使用されるものであるためである。  指定商品「グレープジュース」について、商標「Grape」は、その商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、3条1項3号に該当するため、拒絶理由となる(15条1号)

3. 指定商品「いちご酒」

 商品の品質をの誤認を生ずるおそれがある商標は、登録を受けることができない(4条1項16号)。商標には品質保証機能があり、需要者が誤認するような商標は、需要者の不利益となるためである。
 指定商品「いちご酒」について、商標「Grape」は、原材料がぶどうと誤認を生じるおそれがあり、4条1項16号に該当するため、拒絶理由となる‘‘(15条1号)‘‘。

(3)

 甲は上記商標権侵害訴訟において、どのような抗弁をすべきか説明せよ。

解答例

商標権の効力が及ばない範囲(26条)による抗弁

 商標の効力は、指定商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標については及ばないと規定されている(26条1項2号)そのような商標は、万人が使用する場合があり、一私人にのみ独占排他権を与えることは、不公平であるためである。 商標登録自体に問題ないが、当該商標の効力が及ぶことが妥当でない場合に、制限を設けるための規定である。  ここで、甲は、甲の業務に係る商品「ぶどう」について、乙の登録商標である「Grape」に類似する商標である「Grape」を使用しているが、26条1項2号の規定に該当するため、商標権の効力が及ばない旨を、甲は主張するべきである。

(4)

 上記商標権侵害訴訟において、甲は乙が有する上記商標登録が商標法第8条第1項に 係る無効理由を有していることを発見したが、すでにその商標権の設定の登録の日から 5年を経過していた。この場合における甲の抗弁の可否につき論ぜよ。
 なお、抗弁の可否を論ずるにあたり、問題の所在を述べた上で、抗弁を可とする場合 と抗弁を否定する場合のそれぞれの理由に言及せよ。

解答例

1. 問題の所在

 8条1項の無効理由を有していたとしても、登録日から5年を経過しているため、除斥期間の適用がある(47条)。商標登録が過誤によってなされたときでも、一定期間を経過したときは、既存の状態を尊重し維持するために無効理由たる瑕疵が治癒したものとして、その無効理由を認めないのである。
 当該規定は、無効審判(46条)において適用される。一方、商標権侵害訴訟において、権利行使が制限される旨の抗弁(39条で準用する特104条の3)が認められるかが問題となる。

2. 甲の抗弁を可とする場合

 1.特104条の3における「無効にされるべきもの」とは「46条に該当するもの」という趣旨であると理解すれば、侵害訴訟では除斥期間の経過を考慮しないとも解することができる。
 2.特104条の3は無効理由が存在するときに権利行使制限の抗弁を認めるといった実体的要件に直接係るような文言になっていないので、無効審判を請求することができない場合における権利行使制限の抗弁の可否については、同項の文言上必ずしも明らかでないと解することもできる。
 3.無効審判は対世的に権利を無効にするためのものであるが、権利行使制限の抗弁は相対的に権利を制限するためのものであるから、無効審判の請求の可否と権利行使制限の抗弁の可否を同一に取り扱う必要はないと解することもできる。

3. 甲の抗弁を否定する場合

 抗弁を可とすると、商標権者は、商標権侵害訴訟を提起しても、自らの権利を行使することができなくなり、47条1項の上記趣旨が没却されることとなる。
 そのため、抗弁は不可と解する。

参考

  1. Eemax事件 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/543/086543_hanrei.pdf

  2. 論文 https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3136

所感

  • (4)について、商標登録に係る除斥期間を経過した後における権利行使制限の抗弁 については、論点の一つであることを認識した。本論点を知っていないと、回答が難しいと思う。

平成29年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

平成29年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

【問題Ⅰ】

 商標登録の異議申立制度と無効審判制度の異なる点について、説明せよ。
 ただし、解答に際してはマドリッド協定の議定書に基づく特例は、考慮しなくてよい。
【35点】

解答例

1.趣旨

 異議申し立て制度は、商標登録に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成するために設けられた。また、無効審判制度は、特許庁が行った登録処分の是非を巡る当事者間の争いを解決することを目的として設けられた。

2. 申立人、請求人

 異議申し立ての場合、何人も請求することができる(43条の2第1項)。それに対し、無効審判は、利害関係人のみ請求することができる(46条1項)

3. 申立て理由、請求理由

 無効理由として、権利帰属の無効理由(46条1項4号)、後発的無効理由(46条1項5号、6号、7号)がある。
 本理由は、異議申立て理由とされていない。権利帰属の無効理由は、当事者間の紛争解決手段として規定されているためである。後発的無効理由は、登録後に生じた事由のため、異議申立て理由とすることは適当でく、また、申立可能期間にこのような事由が発生することも事実上極めて稀と考えられるためである。

4. 申立て・請求時期

 異議申し立ては、商標掲載公報の発行の日から2月以内に限り、することができる(43条の2第1項柱書)。また、無効審判は、原則、商標の設定登録日から存続期間満了のときまですることができる。例外として、除斥期間経過後は、請求することができない(47条)また、商標権が消滅した後もすることができる(46条3項)。商標権を侵害した場合の損害賠償請求(民709条)に対抗するためである。

参考

  • 1.趣旨、2.申立て理由、請求理由は、青本の43条の2を参考。
  • 他に、不服申し立て、請求書等の補正、審理の方式、参加、請求等の取下げがある。
  • マドリッド協定の議定書を考慮すると、以下の項目がある。

1. 申立て理由、請求理由

 対象となる商標登録が旧国際登録に係る商標権の再出願に係る商標登録であって、もとの国際登録に係る商標登録について登録異議の申立てがされることなく43条の2第1項の期間を経過した場合、当該商標について異議申し立てをすることができない(68条の37)。なぜならば、実体的審査を必要としないためである。
 対象となる商標登録が国際登録の取消し後の商標登録出願(68条の32)、又は議定書の廃棄後の商標登録出願(68条の33) である場合、無効理由として、68条の32第1項、68条の33第1項、68条の32第2項各号、及び68条の33で準用する68条の32第2項各号が追加される。
 また、旧国際登録に係る商標権の再出願に係る商標登録について、除斥期間の起算日はもとの国際登録日となる(68条の39)

所感

  • 異なる点を列挙すると、意外とある。
  • 商標の論文試験で、半分、特許の内容を聞いてきているような気がする。

平成30年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

平成30年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

【問題Ⅱ】

 甲は、日本国に営業所を有さないフランス国法人であって、「チョコレート」の製造販売を業とするところ、フランス国において平成25 年1月3日になされた商標登録出願を基礎とするパリ条約による有効な優先権を主張して、商標「JPO」につき第30 類「チョコレート」を指定商品とする商標登録出願を日本国に行い、平成25 年7月1日に商標登録を 受けた。
 その後、甲はその製造販売拠点をフランス国パリ市内に移転したことを記念して、新たに商標「JPO Paris」を採択し、第30 類「chocolat」(チョコレート)を指定商品とする商標「JPO Paris」についてのフランス国における商標登録を受け、それを基礎として、日本国を指定国とする国際登録の出願を行い平成29 年1月3日に国際登録を受けた。
 当該国際登録に係る国際商標登録出願については、以下の内容の拒絶理由の通知が発せられた。

拒絶理由①
 本願商標はフランス国の首都である「パリ」を意味する「Paris」の欧文字を包含しているため、フランス国産以外の商品に本願商標を使用した場合に、その品質につき誤認を生ずるおそれがあるから、本願商標は、商標 法第4条第1項第16 号に該当する。

拒絶理由②
 他人乙による第30 類「チョコレート」を指定商品とする登録商標「JP O」が存在するため、本願商標は、商標法第4条第1項第11 号に該当する。

 甲はこれを看過したため、平成30 年4月27 日を送達日とする拒絶をすべき旨の査定を 受けた。
 ここで、乙の登録商標「JPO」は、平成25 年1月4日に出願され、後期分の登録料納 付期限は平成30 年7月10 日となっていたが、当該後期分の登録料は納付された。
 この場合、平成30 年7月1日を基準に以下の設問に答えよ。
 ただし、上記拒絶理由には誤りがなく、乙との交渉は考慮しないものとする。

(1)

甲が、拒絶査定の確定を免れるための法的措置を説明せよ。

解答例

1. 在外者の商標管理人

 在外者は、商標管理人によらなければ、拒絶査定の不服申し立てができない(77条2項で準用する特8条1項)
 甲は、日本国に営業所を有しておらず、外国の法人であるため、在外者である。そのため、商標管理人を選任し、届け出なければならない。

2. 拒絶査定不服審判の請求

 甲は、拒絶査定について拒絶査定不服審判を請求することができる(44条1項)。拒絶査定の謄本送達後、3月以内にする必要がある同条2項

(2)

 甲が、上記(1)の措置を行ったことを前提として、上記の拒絶理由①を解消するにあたっての問題の所在を述べ、日本国特許庁以外の機関に対する手続きも考慮して拒絶理由①を解消するための措置を説明せよ。

解答例

1.問題の所在

 拒絶理由である4条1項16号を回避するためには、指定商品を「チョコレート」から「フランス産のチョコレート」と限定することが考えられる。
 ここで、本出願は国際商標登録出願であるため、拒絶理由通知(15条の2)で指定された期間に限り指定商品について補正をすることができる(68条の27)特許庁からの通報により、国際登録簿の記録内容を変更する場合は、その変更内容に係るものが拒絶理由通知に対してなされたものであることが必要だからである。
 しかし、甲は拒絶理由通知による指定期間を看過したため、特許庁に対して補正をすることができない。

2. 手続き

 甲は、直接、国際事務局に対し、国際登録簿の日本国についての指定商品を「チョコレート」から「フランス産のチョコレート」と限定することを請求する(マドプロ9条の2(iii))。本限定が審決時までにされていれば、本拒絶理由により拒絶審決が確定することはない。

所感

  • 68条の27第1項について、補正は、拒絶理由の指定期間のみできると規定されているが、対応する条約の規定/規則が分からない。11年改正の解説は以下の通り。

    国際商標登録出願においては、その補正の内容は、願書の記載事項と見なされた国際登録簿に記載される必要があるが、国際登録簿の記録内容を日本国特許庁からの通報により変更するためには、その変更内容に係るものが拒絶理由通知に対してなされたものであることが必要であることから補正の時期の特例を規定した。

(3)

 甲が、上記(1)の措置を行ったことを前提として、上記の拒絶理由②を解消するために、乙の登録商標「JPO」に対し取るべき法的措置を説明せよ。

解答例

1.無効理由の検討

 乙の登録商標「JPO」の出願日は平成25年1月4日に対し、甲の登録商標「JPO」の出願日は、パリ条約による優先権主張を伴っているため、先の出願の出願日である平成25年1月3日とみなされる。そのため、甲の登録商標が、乙の登録商標に対して先願となる。
 また、乙の登録商標の登録日は平成25年7月1日に対し、甲の登録商標の登録日は、後期分の登録料納付期限が平成30年7月10日のため、平成25年7月10日である(41条の2第5項)。そのため、甲の登録商標が、乙の登録商標に対して先登録となる。
 そして、乙の登録商標「JPO」と甲の登録商標は同一であり、指定商品「書庫レート」も同一である。
 よって、乙の商標登録は、4条1項11号の無効理由を有する。

2. 商標登録無効判の請求

 甲は、乙の登録商標により、拒絶理由通知を受けているため、利害関係人である(46条2項)
 また、乙の登録商標は登録から5年を経過していない(47条1項)
 よって、甲は、乙の登録商標に対して、4条1項11号の無効理由があるとして、無効審判を請求するべきである(46条1項)

所感

  • 初めて問題文を読んだとき、乙の登録商標の後期分の登録料納付期限について、解答との関連が分からなかった。色々調べていると、先登録か否かで、乙の無効理由が4条1項11号となるか、8条1項となるかが別れることが分かった。乙の登録商標が後願戦登録であれば、無効理由は8条1項となる。

平成30年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

平成30年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [商標]

【問題Ⅰ】

 商標法第3条第2項の趣旨と適用要件を説明した上で、当該規定を適用するに当たって 「出願商標と使用商標の同一性」及び「出願商標に係る指定商品・役務と使用商標に係る 商品・役務の同一性」は厳格に解するべきか否かについて論ぜよ。
ただし、解答に際してはマドリッド協定の議定書に基づく特例は、考慮しなくてよい。

解答例

1.趣旨

 原則、自他商品等識別力がない商標については、登録を受けることができない(3条1項)
 しかし、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果、その商標がその商品また役務と密接に結びついて出所表示機能をもつに至ることが経験的に認められている。
 そのため、適用要件を満たした場合、当該商標を登録することができるよう規定している(同条2項)

2. 適用要件

 自他商品等識別力のない商標について、①3条1項3号から5号に該当すること、及び②使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品等であることを認識できるものであることを要件として、商標登録を受けることができる""(同項)""。
 需要者が認識できるものであるとは、需要者の間で全国的に認識されているものを意味する。

3. 同一性について

 原則、「出願商標と使用商標の同一性」及び「出願商標に係る指定商品・役務と使用商標に係る 商品・役務の同一性」は厳格に解するものである。  しかし、実際の取引社会にあっては、表現媒体に応じて商標の表示態様を変化させざるを得ない場合があり、 また、長年の使用の間に、使用ロゴのイメージを保ちながらも、時代の要請に応じて、若干のロゴ態様の変更を行う場合もある。
 さらに、同一事業主体により製造販売される商品は多様化傾向にあり、「ある個別商品」との関係で著名性を獲得した商標をその他の商品に使用することがブランド戦略の手法として一般的にとられているが、かかる手法は、「ある個別商品」との関係で獲得した著名性が、「その他の商品」にも及び得ることが前提となっている。
 上記の状況に鑑みれば、現実の取引の場面においては、商標の著名性が、使用商標の態様そのものや使用商品・役務そのもののみならず、一定程度の巾をもって認められる場合があるといえるのであり、このような商標を適切に保護するためには、「商標の同一」や「商品の同一」の問題について、個別具体的な事情に基づいて判断することを許容する必要があると解す。

所感

  • 趣旨は、3条の青本を参照。
  • 同一性の巾を許容する理由については、日本弁理士会の要望書を参照。

「出願商標と使用商標の同一性」及び「指定商品・役務と使用商品・役務の同一性」の判断基準に関する要望書を特許庁に提出 | 日本弁理士会

  • 特許庁として、弁理士会の要望書をそのまま記載することを望んでいるのではなく、どのような意見をもっており、それを文章として記載できるかをみたいと考えていると思う。そうでないと、答案を書きようがない。
  • 商品、役務については、厳格に決めなくてもよいと思うが、商標については、ある程度厳格に決めないといけないと、個人的に思った。
  • 商標審査基準〔改訂第12版〕で、本内容が追加。

商標審査基準〔改訂第12版〕について | 経済産業省 特許庁

  • 審査基準ワーキンググループの配布資料に、関連する裁判例がまとめられている。特許庁の仕事ぶりを垣間見た気がした。

第11回商標審査基準ワーキンググループ配布資料 | 経済産業省 特許庁

平成28年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [特許・実用新案]

平成28年度弁理士試験論文式筆記試験問題 [特許・実用新案]

【問題Ⅱ】

 甲は、特許請求の範囲を「工程αの後に工程βを行うことを含んでなる方法によって製 造されたインクa、インクaを収容した収容部b、クリップc及びペン先d1又はd2を 備えたボールペン」とする特許発明イについての日本国特許権Pを有している。特許権P は、特許出願X(出願日平成20 年4月1日)を基礎として特許法第41 条第1項の規定に よる優先権の主張を伴う特許出願Y(出願日平成21 年3月30 日)に係る特許権である。
 乙は、特許発明イを実施する正当な権原を有することなく、「インクa、インクaを収 容した収容部b、クリップc及びペン先d1を備えたボールペン」(「製品A1」という。) 及び「インクa、インクaを収容した収容部b、クリップc及びペン先d3を備えたボー ルペン」(「製品A3」という。)を日本国内において、平成27 年4月1日以降、業として 製造販売している。
 甲は、乙に対し、製品A1及びA3の製造販売の差止めを求めて特許権侵害訴訟を提起 した。
 なお、ペン先d3はペン先d1及びd2とは異なり、かつ、ペン先d1及びd2のいず れにも包含されない構成を指すものとする。また、特許発明イのインクaと製品A1及び A3のインクaは、構造及び特性等を同一にする物であるとする。
 以上の事例を前提として、以下の設問に答えよ。
 ただし、特許発明イに係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36 条第6項第2号に規 定する要件(明確性要件)を満たすものとする。

(4)

 クリップcは、特許出願Xの出願前に筆記具の技術分野において周知技術であった。
 しかし、特許発明イのクリップcは、特許出願Yの際に明細書に追加された構成で あって、特許出願Xの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載 された事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
 一方、丙は、平成20 年10 月1日より「インクa、インクaを収容した収容部b、 及びペン先d2を備えたボールペン」(「製品A2」という。)の販売を全国的に開始し ていた。なお、特許発明イのインクaと製品A2のインクaは、構造及び特性等を同 一にする物であるとする。
 この場合、乙は、侵害訴訟において、特許法第104 条の3第1項に基づき、どのよ うな抗弁を主張することが考えられるか、説明せよ。

解答例

1. 優先権主張の効果

 特許出願Yは、先の出願であるXに基づき、優先権の主張を伴う出願であるところ(41条1項)、 出願Yの特許請求の範囲に記載されているクリップcについては、先の出願であるXの願書に最初に添付した明細書等に 記載されていないため、出願Yの特許発明イについては、優先権の主張の効果を有しない(同条2項)

2. 無効の抗弁

 設問より、出願Yの出願前に実施されている製品A2を引用例として、特許発明イが29条2項の規定に該当するかについて、クリップcは、出願Yの時点で、筆記具の技術分野において周知技術であったことから、当業者により容易に想到することができると解されるため、 特許発明イは、進歩性が無いとする無効理由を有する(29条2項、123条1項2号)
 そのため、乙は、侵害訴訟において、104条の3第1項に基づき、上記の無効の抗弁を主張することが考えられる。

所感

  • 「1.優先権主張の効果」を、「出願日の認定」とするかどうかについて迷った。
     優先権の主張により、出願日が遡及されるわけではなく、特許要件を判断する基準日が、先の出願の出願日となることから、出願日うんぬんは記載すべきではないと思う。

(5)

 前記(4)の乙の主張に対抗して、甲は、侵害訴訟において、どのような主張をするこ とが考えられるか、説明せよ。

解答例

 乙が、特許権Pに29条2項に規定する進歩性の無効理由を有する抗弁を主張した場合、甲は訂正の再抗弁を主張するべきである。訂正の再抗弁とは、①特許権者が、適法に訂正の請求を行うこと、②当該訂正により、無効理由が解消すること、③対象となる製品が、当該訂正後の特許請求の範囲に属することを、主張立証することである。  よって、甲は、訂正審判(126条1項)を請求し、特許権Pに係る特許請求の範囲から、ペン先d2を減縮する訂正をするべきである(同項1号)。当該訂正は、願書に添付した明細書等の記載した事項の範囲内であり(同条5項)、実質上特許請求の範囲の拡張、又は変更するものでなく(同条6項)、また、独立特許要件も満たす‘‘(同条7項)‘‘ものと解する。  訂正審判の審決確定後、訂正後の特許請求の範囲により、特許権の設定の登録がされたものとみなされ(128条)、乙が主張する無効理由を回避することができる。
 また、製品A2は、訂正後の特許権Pの特許請求の範囲に属するため、甲は、製品A2が、特許権Pを侵害していることを主張することが考えられる。

所感

  • はじめ、訂正審判ではなく、訂正の請求(134条の2)として記載していた。無効審判ではないため、訂正の請求ではない。
  • 訂正の再抗弁の要件は、平成19年(ワ)第17762号損害賠償請求事件、筆記具のクリップ取付装置事件に記載。
  • 訂正の再抗弁の要件を挙げなくても、適法な訂正、無効理由の解消、特許権の侵害と、順序良く記載すればよいように思う。ただ、問題もクリップとか、ボールペンを題材にしているだけに、出題者も、訂正の再抗弁の要件を挙げてほしいと、思っているのであろう。